コラム「出生前検査を問題と思うのは」佐々木和子
「いのち」のもとはこうして造られ、我が家にダウン症の赤ちゃんがやってきました。
生物は宇宙のちりから生まれたのです。
宇宙が誕生したのは138億年前の「大爆発(ビッグ・バン)」で、その後、多くの星が生まれては死んでいきました。星の寿命は重さによって違い、太陽程度の重さの星は約100億年だそうです。最も重い星の寿命は約1000万年程度しかなく、世代交代を繰り返し銀河中の重い元素を増やしていきます。
地球上に存在するすべての生命を形づくっている重い元素は、どこかの星の中心部にあったと考えられます。生命誕生には、繰り返されている星たちの壮絶な一生があったのです。
ちょっとロマンチックで感動的ではありませんか?
そして、約47億年前、太陽系が形成され、太陽のまわりのガスやちりが集まり微惑星が生まれました。その微惑星が衝突、合体を繰り返し、約46億年前に原始地球が誕生したのです。
最初の10億年は火山の爆発、稲妻、滝のような雨を伴う凄まじい場所でした。やがて地表と大気は冷え始め、海がつくられました。その間にゆっくりと生命のもとである有機物がつくられていき、約38億年前に原始の海の中で最初の原始生命(自己複製子)が誕生したといわれています。
自己複製子は生まれるとまもなく、そのコピーを海中に増やしていきました。
この複製という作業、時々、間違うのです。そのため原始の海の中は「祖先」は同じですが、タイプの異なった自己複製分子が増えていき、元気なものが生き残っていきました。
たった一度っきり生み出された生命のもとは、その生命維持の方法を頑固なまでに変えず、子孫に伝えてきました。それが遺伝です。そして遺伝物質DNAです。
また、一方で、地球という変化する環境に適応するために、遺伝子の組み合わせを変えて、遺伝形質の多様性を作りだし、多様な生命体を生んできました。
ちなみに今、地球上で発見され、分類されている生物は約125万種だそうです。
38億年前に生み出された生命のもとが、今、125万種。絶滅した種も加えたら地球は多くの多様な生命体を生み、消していった歴史がある、ということです。
その中で人間だけは特別なんて、地球という星は絶対、考えてないですよ。
主導権は地球にあるのですから。
で、その多様な生命体を生んできた結果、適応する遺伝子とともに、生命に重大な影響をおよぼす遺伝子の変化も数十個、全ての人が持ってしまっています。
その多くは劣性遺伝で、かくれています。
また、すべての生物は、親と異なることも、他の人と異なることもごくごく自然のことなのです。
障害を持つことも、病気になることも自然な流れで、遺伝性疾患や障害をなくすことは不可能なことです。
膨大な地球時間の中で、生命体はゆっくりでも絶えず、変化しています。
そうした時間の流れの中で生まれてくる新しい命は、どんな形であれ、地球の営みにとって必要な命なのです。
私たちが住む地球という星の上では、人間は特別な生き物ではなく、地球時間で言えば、ごくごく最近生まれた一つの生命体にすぎません。
今、問題になっている新型コロナウイルスも私たちの親戚と言えば、親戚なのです。だから、簡単に体に取り込んでしまうのです。でも、あまり仲の良い親戚とは言えないようです。
生物が多様に変化してきたのは、生物が地球上で存続するのに必要だったことで、その過程で持った、病気や障害とは付き合い、折り合いをつけながら生きていくのが全ての生物としての当然の有り様なのです。
長い時間にともなって起こる生物の形や不可逆的な変化を進化といいます。
私たちは、人間が進化の産物であるために、進化を漠然と「よいもの」であるかのように考え、
特別な生き物と思いがちですが、人間も他の絶滅していった生物と同じ、単に変化を繰り返す中で偶然生まれた生物の一種で、地球という星の歴史の中の一コマに過ぎません。
そして、1982年12月28日、我が家にダウン症の赤ちゃんがやってきました。
ダウン症候群とは21番染色体を1本多く持ってしまったために、発達の遅れと様々な病気がおこります。いろんな似通った症状が特徴的にみられるので、1866年イギリスのジョン・ラングドン・ダウンが独立した疾患として、報告したのがこの症候群の名前のはじまりです。
ダウン症候群の症状の原因は、遺伝子の変異によるものではなく、21番染色体が1本多くあるために、21番染色体に存在する遺伝子の量が通常より1.5倍あり、遺伝子がタンパクを余分に作り出すためです。そのために様々な症状がでるので症候群といいます。
21番染色体はヒト染色体の中で最も小さいもので、遺伝子の数も約225個、ほぼ同じ大きさの22番染色体の半分以下です。同じ大きさの染色体でも存在する遺伝子の数は違う、ということです。
人の身体は約37兆個の細胞でできています。細胞は核と細胞質からできていて、核の中には
46本の染色体があります。染色体の上には人の身体を作るすべての遺伝子がのっています。
染色体は大きい順に1番から22番までの常染色体と性を決める性染色体 (X,Y)があり、各番号2本ずつあります。それはお母さんから23本、お父さんから23本もらうからです。
父親からX染色体をもらうと女の子、Y染色体をもらうと男の子になります。
細胞には身体を作る体細胞と、次代に情報を伝える生殖細胞(女性は卵子、男性は精子)になる細胞があります。体細胞は細胞分裂する時、46本の染色体をきれいにコピーして、どの細胞にも46本もちますが、生殖細胞は受精して46本になるように、染色体数を半分の23本にする、減数分裂という作業をします。その作業は、親と違う性質を持つために、お父さんの遺伝子とお母さんの遺伝子の入れ替えをしながら(入れ替えは体細胞ではしません)、46本の染色体を1/2にするという、とても複雑なことをするので、よく間違うのです。
この間違いはどの番号でも同じように頻繁に起こっているのですが、21番、13番、18番とY染色体には、生命に大きく関与する遺伝子がのっていないため、遺伝情報のアンバランスをひきおこすことも少なく、少数ですが、生まれてくることができます。
でも他の染色体の場合は、受精しない、受精しても着床しない、気がつかないくらいの早期流産、流産などがおこり、生きて生まれることがほとんど、できません。
流産の6〜7割りはこの染色体の変異といわれています。
このように、全ての生物の中で、日常的に遺伝子も含め変化は起こっています。
私は息子の元治がダウン症候群だったことから、私の身体の中で何が起こったのかを知りたくなり、紐解いていくうちに、地球誕生にたどり着きました。そして、生物ってなんて複雑なことをしながら命をつないできたんだろうということにとても感動しました。元治がダウン症だったことは、地球が命を育む営みの中で起こるごく当たり前のことだったのです。
こうして知った知識を根拠に、「命の質を選ぶ出生前診断は生物の有り様に反しているし、まして、地球誕生から、46億年かけて今に至るゲノムを、人工的に一瞬に変えてしまうゲノム編集なんてとんでもない」と考えています。このような行為は全て人間の都合のみで行われ、大きな市場となっています。また、差別を助長し、人社会を混乱させている原因になっていることも問題と考えて、活動してきました。
誰もが安心して子どもを産み、育てることのできる社会は、障害を持つ人が、住み慣れた地域で自立生活を送れることに共通しています。そんな社会になっていくよう、活動を続けていこうと思っています。
